勤怠管理がない会社は違法?罰則と未払い残業代のリスクについて

勤怠管理

従業員が少ないうちはタイムカードも出勤簿も置かず、毎月決まった給与を払ってきたという会社は、今でも珍しくありません。

しかし勤怠管理がない会社は、従業員から未払い残業代を請求されたり、労働基準監督署の調査が入ったりしたときに、反論するための記録を何も持っていない状態にあります。

法律でタイムカードの設置が義務付けられているわけではないため、問題に気づかないまま運用を続けているケースも多くあります。

この記事では、勤怠管理がない会社の違法性、根拠条文ごとの罰則、未払い残業代のリスク、よくある誤解、今からやるべきことまでを解説します。

勤怠管理がない会社は違法?

勤怠管理がない会社は、タイムカードを置いていないこと自体は違法ではありませんが、従業員の労働時間を把握・記録していない状態は、労働基準法と労働安全衛生法で会社に課されている義務に反します。

問題になるのは記録の道具があるかどうかではなく、会社が従業員の労働時間を客観的に把握し、記録として残しているかどうかです。

タイムカードの設置は義務ではない

タイムカードや勤怠管理システムの導入を会社に義務付ける法律はありません。

出勤簿、パソコンの使用時間の記録、ICカードの入退室記録など、タイムカード以外の方法で労働時間を正しく記録していれば、法律上の問題はありません。

そのため、タイムカードがないという理由だけで違法になることはありません。

会社に課されている労働時間の把握・記録の義務

一方で、会社には以下のような労働時間の把握と記録に関する義務があります。

根拠 義務の内容
労働安全衛生法第66条の8の3 労働時間の状況を客観的な方法で把握する
労働基準法第108条 賃金台帳を作成し、労働時間数や時間外労働の時間数を記入する
労働基準法第109条 出勤簿などの労働関係の重要な書類を5年間(当分の間は3年間)保存する
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン 始業・終業時刻を確認・記録し、自己申告の場合は実態との乖離を確認する

賃金台帳に労働時間数や時間外労働の時間数を書くためには、そもそも労働時間を把握していなければなりません。

つまり、勤怠を記録していない会社は、賃金台帳を正しく作ることもできない状態にあります。

「勤怠管理がない」とみなされる状態

タイムカードや出勤簿があっても、以下のような状態であれば、実質的に勤怠管理がないのと同じと判断されるおそれがあります。

  • 従業員の自己申告だけで、実態と合っているかを会社が確認していない
  • 始業・終業の時刻ではなく、出勤したかどうかだけを記録している
  • 記録はあるが、決められた期間保存していない
  • 管理職や営業職など、一部の従業員の労働時間を記録していない
  • 所定の時刻を毎日同じように書かせ、実際の時刻を記録していない

特に、毎日同じ時刻が並んでいる出勤簿は、実際の労働時間を記録していない証拠と見られやすいため注意が必要です。

このように、勤怠管理がない会社は、タイムカードを置いていないこと自体は違法ではありませんが、労働時間を把握・記録していない状態は、労働基準法と労働安全衛生法の義務に反します。

次は、勤怠管理がない会社に科される罰則を、根拠条文ごとに確認します。

勤怠管理がない会社に科される罰則

勤怠管理がない会社に科される罰則は、根拠となる条文によって異なり、記録の保存義務や賃金台帳の記入義務の違反には30万円以下の罰金、労働時間の上限や割増賃金の支払いの違反には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。

勤怠管理をしていないこと自体に1つの罰則があるわけではなく、勤怠を記録していないことで守れなくなる複数の義務に、それぞれ罰則が定められています。

根拠条文ごとの罰則一覧

勤怠管理がない会社が違反しやすい義務と罰則は、以下の通りです。

違反しやすい義務 根拠条文 罰則
労働時間の状況の把握 労働安全衛生法第66条の8の3 罰則の定めなし
賃金台帳の作成と労働時間数の記入 労働基準法第108条 30万円以下の罰金
出勤簿などの記録の保存 労働基準法第109条 30万円以下の罰金
法定労働時間(1日8時間・週40時間) 労働基準法第32条 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
休憩時間の付与 労働基準法第34条 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
時間外・休日・深夜の割増賃金の支払い 労働基準法第37条 6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金

勤怠を記録していなければ、36協定の範囲を超えた残業や、支払うべき割増賃金の不払いがあっても会社自身が気づけないため、結果としてこれらの違反が重なりやすくなります。

罰則がない義務でも違反にならないわけではない

労働安全衛生法の労働時間の状況の把握義務には、罰則が定められていません。

しかし、罰則がないことは義務がないことを意味するわけではなく、労働基準監督署の調査では是正の指導の対象になります。

また、労働時間を把握していないことは、長時間労働による健康障害が起きた場合に、会社が安全配慮義務を果たしていなかったと判断される材料にもなります。

このように、勤怠管理がない会社に科される罰則は根拠条文によって異なり、記録の保存や賃金台帳の違反には30万円以下の罰金、労働時間や割増賃金の違反には6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が定められています。

次は、罰則以上に会社への影響が大きい、未払い残業代のリスクを確認します。

勤怠管理がない会社の未払い残業代リスク

勤怠管理がない会社の最も大きなリスクは未払い残業代で、請求できる期間は過去3年分に延びており、裁判になれば付加金や遅延損害金が加わるうえ、会社に記録がないと従業員側のメモや記録をもとに労働時間が認定されやすくなります。

罰金は多くても数十万円ですが、未払い残業代は従業員1人あたりで数百万円になることもあり、複数の従業員から同時に請求されれば経営を揺るがしかねません。

賃金請求権の時効は3年

2020年4月の労働基準法の改正により、賃金請求権の時効は2年から5年に延長され、経過措置として当分の間は3年とされています。

この改正は2020年4月1日以降に支払日が来る賃金に適用されるため、現在では、従業員は過去3年分の未払い残業代を請求できます。

勤怠管理がない状態が長く続いている会社ほど、請求の対象となる期間が長くなります。

付加金と遅延損害金

割増賃金の不払いについて裁判になった場合、裁判所は未払いの金額に加えて、同じ額までの付加金の支払いを命じることができます(労働基準法第114条)。

つまり、未払い残業代が100万円であれば、付加金を合わせて最大200万円の支払いを命じられる可能性があります。

さらに、支払いが遅れた期間に応じて遅延損害金もかかり、退職した従業員の賃金については、賃金の支払の確保等に関する法律により年14.6%の利率が適用されます。

会社に記録がないと従業員側の記録で判断される

未払い残業代の請求では、本来は労働時間を主張する従業員側が証明する必要があります。

しかし、会社が労働時間を記録していない場合、従業員が付けていた手帳のメモや自作の出勤簿、メールの送信時刻、パソコンのログなどが、労働時間を認定する証拠として扱われます。

実際に、タイムカードのない会社で、元従業員が自分で作成した出勤簿の信用性が認められ、会社に残業代約150万円と付加金の支払いが命じられた裁判例があります。

パソコンの起動と終了の記録について、ほかに客観的な記録がない以上は参照するのが相当として、労働時間の証拠と認めた裁判例もあります(東京地裁平成18年11月10日判決)。

従業員側のメモの内容に矛盾が多く、信用性が否定された裁判例もありますが、会社に記録がなければ、そのメモが実態と違うことを会社が示す手段もありません。

未払い残業代の試算例

月給30万円(基本給のみ)、月の所定労働時間160時間の従業員が、毎月20時間の残業代を支払われていなかった場合の試算は、以下の通りです。

項目 計算 金額
1時間あたりの賃金 30万円 ÷ 160時間 1,875円
1か月の未払い残業代 1,875円 × 1.25 × 20時間 46,875円
3年分の未払い残業代 46,875円 × 36か月 1,687,500円
付加金を含めた最大額 1,687,500円 × 2 3,375,000円

これに遅延損害金が加わり、同じ条件の従業員が3人いれば、単純計算で1,000万円を超えます。

このように、勤怠管理がない会社の最も大きなリスクは未払い残業代で、請求できる期間は過去3年分に延び、付加金や遅延損害金が加わるうえ、会社に記録がないと従業員側のメモや記録をもとに労働時間が認定されやすくなります。

次は、勤怠管理がない会社で起きやすい誤解を確認します。

勤怠管理がない会社で起きやすい誤解

勤怠管理がない会社では、管理職は対象外、固定残業代なら記録は不要、少人数の会社は関係ない、裁量労働なら把握は不要といった誤解が多く見られますが、いずれも労働時間を記録しなくてよい理由にはなりません。

こうした誤解は、勤怠管理を始めない理由として持ち出されやすく、結果として未払いや法令違反を長く放置する原因になります。

管理職は勤怠管理しなくていい

労働基準法上の管理監督者には、労働時間・休憩・休日の規定が適用されないため、時間外労働や休日労働の割増賃金は支払う必要がありません。

しかし、管理監督者であっても深夜労働の割増賃金は支払う必要があり、労働安全衛生法の労働時間の状況の把握義務の対象にも含まれます。

また、課長や店長といった肩書きがあっても、経営者と一体的な立場にあり、出退勤の自由があり、地位にふさわしい待遇を受けているといった実態がなければ、管理監督者とは認められません。

管理監督者と認められなかった場合、それまで支払っていなかった残業代をさかのぼって請求されることになります。

固定残業代なら残業時間を記録しなくていい

固定残業代は、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う仕組みであり、残業代の支払いを不要にするものではありません。

実際の残業時間が固定残業代に含まれる時間を超えた場合は、超えた分の残業代を追加で支払う必要があります。

超えたかどうかを判断するには実際の残業時間を記録しておく必要があるため、固定残業代を導入している会社ほど、勤怠の記録が欠かせません。

従業員が少ない会社は対象外

労働時間の把握と記録の義務は、従業員の人数にかかわらず、労働者を1人でも雇っていればすべての会社に適用されます。

就業規則の届出義務は常時10人以上の事業場に限られますが、労働時間の記録や賃金台帳の作成には、そのような人数の区切りはありません。

裁量労働制・みなし労働なら把握は不要

裁量労働制や事業場外みなし労働時間制では、実際の労働時間にかかわらず、決められた時間を働いたものとみなして賃金を計算します。

しかし、労働安全衛生法の労働時間の状況の把握義務は、裁量労働制やみなし労働時間制の従業員にも適用されます。

また、深夜や休日に働いた場合は割増賃金が必要になるため、その時間を把握しておく必要があります。

このように、勤怠管理がない会社で見られる、管理職は対象外、固定残業代なら記録は不要、少人数の会社は関係ない、裁量労働なら把握は不要といった考えは、いずれも労働時間を記録しなくてよい理由にはなりません。

次は、労働基準監督署の調査と是正勧告の流れを確認します。

労働基準監督署の調査と是正勧告

労働基準監督署の調査は、定期的な監督のほか、従業員や退職者からの申告をきっかけに入ることが多く、勤怠の記録や賃金台帳を確認されたうえで、違反があれば是正勧告を受け、従わない場合は送検される可能性もあります。

勤怠管理がない会社は、調査で最初に求められる書類を用意できないため、調査が入った時点で不利な立場に置かれます。

調査が入るきっかけ

労働基準監督署の調査が入る主なきっかけは、以下の通りです。

  • 監督署が計画的に対象を選んで行う定期監督
  • 従業員や退職者が、未払い残業代や長時間労働を監督署に申告した場合の申告監督
  • 労働災害が発生した場合の調査
  • 是正勧告のあと、是正されているかを確認する再監督

退職した従業員が未払い残業代を監督署に申告するケースは多く、勤怠管理がない会社ほど、申告をきっかけに調査が入る可能性が高くなります。

調査で確認される書類

調査では、主に以下のような書類の提出を求められます。

  • タイムカードや出勤簿などの労働時間の記録
  • 賃金台帳
  • 労働者名簿
  • 就業規則
  • 36協定の届出
  • 年次有給休暇管理簿

労働時間の記録がなければ、賃金台帳の労働時間数も正しく記入されておらず、36協定の範囲内で残業させているかも確認できないため、複数の違反を同時に指摘されることになります。

是正勧告と、従わない場合の対応

調査で法令違反が見つかった場合は、是正勧告書が交付され、期日までに違反を是正して報告することを求められます。

未払い残業代が見つかった場合は、過去にさかのぼって調査し、未払い分を支払うよう指導されることもあります。

是正勧告は行政指導であり、それ自体に強制力はありませんが、従わずに違反を続けた場合や、悪質と判断された場合は、書類送検される可能性があります。

このように、労働基準監督署の調査は定期監督や従業員からの申告をきっかけに入り、勤怠の記録や賃金台帳を確認されたうえで、違反があれば是正勧告を受け、従わない場合は送検される可能性もあります。

次は、勤怠管理がない会社が今からやるべきことを確認します。

勤怠管理がない会社が今からやるべきこと

勤怠管理がない会社が今からやるべきことは、現在の労働時間の実態を把握し、客観的な記録の方法を導入し、就業規則と36協定を確認したうえで、過去の未払い分があれば精算することです。

従業員から請求を受けたり調査が入ったりしてから対応するよりも、自主的に整えておく方が、会社の負担は小さく済みます。

現在の労働時間の実態を把握する

まずは、従業員が実際に何時から何時まで働いているのかを把握します。

パソコンを使う職場であればパソコンの起動と終了の記録、事務所の入退室の記録、業務用メールの送信時刻などから、おおよその始業と終業の時刻を確認できます。

所定の時間を大きく超えて働いている従業員がいないか、休憩が取れているかを確認しておきましょう。

客観的な記録の方法を導入する

次に、始業と終業の時刻を客観的に記録する方法を導入します。

手書きの出勤簿やエクセルへの手入力は、従業員の自己申告になりやすく、後から書き換えられるため、客観的な記録としては弱い方法です。

打刻した時刻がそのまま記録され、修正する場合は申請と承認の記録が残る勤怠管理システムを使えば、ガイドラインが求める客観的な記録を最も確実に残せます。

就業規則と36協定を確認する

残業をさせる場合は、労使で36協定を結び、労働基準監督署に届け出ておく必要があります。

36協定を届け出ずに法定労働時間を超えて働かせることは、それだけで労働基準法違反になります。

あわせて、就業規則の始業・終業時刻、休憩時間、残業の手続きが実態と合っているかを確認し、必要に応じて見直します。

過去の未払い分を精算する

実態を把握した結果、支払っていない残業代があることが分かった場合は、過去にさかのぼって精算することを検討します。

自主的に精算しておけば、後から請求された場合に付加金や高い利率の遅延損害金が加わるリスクを抑えられます。

精算の金額や方法については、社会保険労務士や弁護士に相談しながら進めると確実です。

このように、勤怠管理がない会社が今からやるべきことは、労働時間の実態の把握、客観的な記録の方法の導入、就業規則と36協定の確認、過去の未払い分の精算です。

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