フレックスタイム制で固定残業代は使える?差額精算と注意点について
フレックスタイム働く時間を従業員が決める仕組みと、毎月一定額の残業代を払う仕組みは、一見すると組み合わせにくいように思えます。
実際に、フレックスタイム制のもとで固定残業代を払っている会社では、差額の計算や不足時間が出た月の扱いに迷う担当者が少なくありません。
就業規則や雇用契約書の書き方によっては、残業代を払っていたつもりでも、払っていなかったと判断されることもあります。
フレックスタイム制で固定残業代を扱うときの考え方を、計算の例と規程の整え方まで含めて順に確かめていきます。
フレックスタイム制で固定残業代は使える?
フレックスタイム制でも固定残業代は使うことができ、その対象は清算期間の法定労働時間の総枠を超えた時間外労働で、通常の賃金と区別され、時間外労働の対価として支払われていることが有効の条件です。
フレックスタイム制と固定残業代は併用できる
固定残業代は、あらかじめ決めた時間分の割増賃金を、実際の時間外労働の有無にかかわらず毎月定額で支払う仕組みです。
フレックスタイム制で固定残業代を使うことを禁止する法律はなく、両方を組み合わせて運用している会社もあります。
ただし、フレックスタイム制では時間外労働の数え方が固定時間制と異なるため、固定残業代が何時間分の、どの時間に対する支払いなのかを正しく定めておく必要があります。
固定残業代の対象は、法定の総枠を超えた時間外
フレックスタイム制の時間外労働は、清算期間の実際の労働時間が法定労働時間の総枠(40時間×暦日数÷7)を超えた部分です。
そのため、固定残業代で「月30時間分の時間外労働」と定めた場合、その30時間は、総枠を超えた時間外労働に対する支払いということになります。
所定の総労働時間を超えて総枠までの法定内残業の時間も固定残業代に含める場合は、時間外労働の分と区別して、時間数と金額を定めておく必要があります。
固定残業代が有効と認められる要件
固定残業代が割増賃金の支払いとして認められるかどうかについては、最高裁判所の判例で、主に以下の2つの要件が示されています。
| 要件 | 内容 | 主な判例 |
|---|---|---|
| 明確区分性 | 通常の労働時間の賃金と、割増賃金にあたる部分とを区別できること | 高知県観光事件(最高裁平成6年6月13日判決)、テックジャパン事件(最高裁平成24年3月8日判決) |
| 対価性 | その手当が、時間外労働の対価として支払われていること | 日本ケミカル事件(最高裁平成30年7月19日判決) |
これらの要件を満たさない場合、固定残業代は割増賃金の支払いとは認められず、基本給の一部として扱われるため、会社は改めて時間外労働の割増賃金を全額支払わなければならなくなります。
さらに、固定残業代が基本給に組み込まれた結果、割増賃金を計算するもとになる時間単価も上がるため、未払いの額が大きくなります。
このように、フレックスタイム制でも固定残業代は使うことができ、その対象は清算期間の法定労働時間の総枠を超えた時間外労働で、通常の賃金と区別され、時間外労働の対価として支払われていることが有効の条件です。
次は、フレックスタイム制の固定残業代の差額精算を解説します。
フレックスタイム制の固定残業代の差額精算
フレックスタイム制の固定残業代は、総枠を超えた時間外労働が固定残業時間を上回った月は差額を追加で支払い、下回った月も減額せずに全額を支払うのが原則です。
総枠を超えた時間外が固定残業時間を上回った月は、差額を払う
清算期間の総枠を超えた時間外労働が、固定残業代で定めた時間を上回った場合は、上回った時間分の割増賃金を追加で支払う必要があります。
清算期間を1か月、30日の月(総枠171.4時間)、時間外労働1時間あたりの割増賃金を2,500円、固定残業代を30時間分の75,000円とした場合の例は、以下の通りです。
| 項目 | 月A | 月B |
|---|---|---|
| 実際の労働時間 | 211.4時間 | 181.4時間 |
| 時間外労働(実際の労働時間−171.4時間) | 40時間 | 10時間 |
| 時間外労働の割増賃金 | 100,000円 | 25,000円 |
| 固定残業代 | 75,000円 | 75,000円 |
| 追加で支払う差額 | 25,000円 | 0円 |
| 支払う合計 | 100,000円 | 75,000円 |
月Aでは、固定残業時間の30時間を10時間上回っているため、10時間分の25,000円を追加で支払います。
下回った月も、固定残業代は全額払う
月Bのように、時間外労働が固定残業時間を下回った月でも、固定残業代は定めた額を全額支払います。
固定残業代は、実際の時間外労働の時間にかかわらず定額で支払う約束なので、時間外労働が少なかったことを理由に減額することはできません。
深夜・法定休日・月60時間超を含める場合は、分けて定める
固定残業代に深夜労働や法定休日の労働の割増賃金を含める場合は、時間外労働の分と区別して、それぞれの時間数と金額を定めておく必要があります。
時間外・深夜・休日をまとめて1つの金額で定めると、どの部分が何の対価なのかを区別できず、固定残業代が無効と判断されるおそれがあります。
また、時間外労働が月60時間を超えた部分は50%以上の割増賃金が必要なため、固定残業時間を超えて60時間を超えた月は、その部分を50%以上で計算して差額を支払います。
このように、フレックスタイム制の固定残業代は、総枠を超えた時間外労働が固定残業時間を上回った月は差額を追加で支払い、下回った月も減額せずに全額を支払うのが原則です。
次は、フレックスタイム制で不足時間が出たときの固定残業代の扱いを解説します。
フレックスタイム制で不足時間が出たときの固定残業代
フレックスタイム制で総労働時間に不足が出た月も、固定残業代は原則として全額を支払い、按分や控除をするには就業規則などの定めが必要で、不足時間の控除は基本給の側で行います。
原則は全額支給
清算期間の実際の労働時間が所定の総労働時間に足りなかった月は、総枠を超えた時間外労働もないことになります。
それでも固定残業代は、時間外労働の有無にかかわらず支払う約束の手当なので、就業規則などに別の定めがない限り、全額を支払うのが原則です。
按分や控除は、就業規則の定め次第
不足時間が出た月や、月の途中で入社・退社した月、休業に入った月に、固定残業代を日割りや按分で減らしたい場合は、その計算方法を就業規則や賃金規程に定めておく必要があります。
定めがないまま会社の判断で減額すると、賃金の一方的な引き下げとして争いになるおそれがあります。
不足時間の控除は、基本給の側で行う
フレックスタイム制で不足時間を控除する場合は、基本給などの通常の賃金から、不足した時間分を差し引きます。
不足時間の控除と固定残業代は別のものなので、不足時間があるからといって固定残業代から差し引くのではなく、基本給の時間単価をもとに控除額を計算します。
不足時間を控除せずに翌月へ繰り越す場合は、翌月の法定労働時間の総枠の範囲内に収める必要があります。
このように、フレックスタイム制で総労働時間に不足が出た月も、固定残業代は原則として全額を支払い、按分や控除をするには就業規則などの定めが必要で、不足時間の控除は基本給の側で行います。
次は、清算期間1か月超のフレックスタイム制と固定残業代の関係を解説します。
清算期間1か月超のフレックスタイム制と固定残業代
清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制では、固定残業代を毎月の時間外労働、つまり週平均50時間を超えた時間と最終月の総枠超過の時間で精算し、清算期間の最終月に時間外労働が集中しやすい点に注意が必要です。
各月の時間外で精算する
清算期間が1か月を超える場合、各月の時間外労働となるのは、その月の労働時間が週平均50時間(50時間×暦日数÷7)を超えた部分です。
固定残業代は毎月支払うものなので、各月の時間外労働と固定残業時間を比べ、上回った月はその月の賃金で差額を支払います。
清算期間の途中の月は、週平均50時間を超えない限り時間外労働がないため、固定残業代を全額支払ったうえで差額は発生しないことが多くなります。
最終月は時間外が集中し、固定残業時間を超えやすい
清算期間の最終月には、その月の週平均50時間超の時間に加えて、清算期間全体で総枠を超えた時間がまとめて時間外労働として加わります。
そのため、最終月だけ時間外労働が大きくなり、固定残業時間を大きく上回って差額が発生したり、月60時間を超えて50%の割増が必要になったりすることがあります。
清算期間の途中で各月の労働時間を確認し、最終月に時間外労働が偏らないよう調整しておくことが大切です。
清算期間と賃金の締め日をそろえる
清算期間の区切りと賃金の締め日がずれていると、どの月の時間外労働をどの月の固定残業代と比べるのかが分かりにくくなり、差額の計算を誤る原因になります。
清算期間の起算日は、賃金の締め日にあわせて設定しておくと、精算の手間と誤りを減らせます。
このように、清算期間が1か月を超えるフレックスタイム制では、固定残業代を毎月の時間外労働、つまり週平均50時間を超えた時間と最終月の総枠超過の時間で精算し、清算期間の最終月に時間外労働が集中しやすい点に注意が必要です。
次は、フレックスタイム制で固定残業代を設定するときの注意点を解説します。
フレックスタイム制で固定残業代を設定するときの注意点
フレックスタイム制で固定残業代を設定するときは、就業規則と雇用契約書に時間数・金額・超えた分の支払いを明記し、固定残業時間を月45時間以内にとどめ、求人での明示と実際の労働時間の記録を欠かさないことが大切です。
就業規則と雇用契約書に、時間数・金額・超えた分の支払いを明記する
固定残業代は、フレックスタイム制の労使協定で定める事項ではないため、労使協定に書く必要はありません。
その代わりに、就業規則や賃金規程、雇用契約書に、以下の事項を明記しておく必要があります。
- 固定残業代の名称と金額
- 何時間分の時間外労働(深夜・休日を含める場合はそれぞれ)に対する支払いか
- 対象となる時間外労働が、清算期間の総枠を超えた時間であること
- 固定残業時間を超えた時間外労働には、差額を追加で支払うこと
- 不足時間が出た月や、月の途中で入社・退社した月の扱い
固定残業時間は月45時間以内に設定する
36協定で定められる時間外労働の上限は、原則として月45時間です。
固定残業時間をこれより長く設定すると、長時間の時間外労働を前提とした賃金設計とみなされ、固定残業代の有効性が争われるおそれがあります。
実際に、月80時間分の固定残業代について、長時間労働を前提とするものとして無効と判断した裁判例もあります(イクヌーザ事件、東京高裁平成30年10月4日判決)。
求人では、固定残業代を除いた基本給などを明示する
固定残業代を払う会社が従業員を募集する場合は、職業安定法に基づく指針により、固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代の時間数と金額、固定残業時間を超えた時間外労働には追加で割増賃金を支払うことを明示する必要があります。
フレックスタイム制であることとあわせて明示しておくと、入社後の認識のずれを防げます。
実際の労働時間を記録する
固定残業代を払っていても、実際の労働時間を記録しなくてよいわけではありません。
差額を正しく計算するには、毎月の時間外労働の時間を把握する必要があり、会社には客観的な方法で労働時間の状況を把握する義務もあります(労働安全衛生法第66条の8の3)。
このように、フレックスタイム制で固定残業代を設定するときは、就業規則と雇用契約書に時間数・金額・超えた分の支払いを明記し、固定残業時間を月45時間以内にとどめ、求人での明示と実際の労働時間の記録を欠かさないことが大切です。
次は、フレックスタイム制の固定残業代の精算に必要な時間を集計できる勤怠クラウドを紹介します。
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総枠を超えた時間外を自動で集計
従業員のグループごとに勤務形態をフレックスタイム制に設定すると、時間外労働は、その月の労働時間の合計が法定労働時間の総枠(40時間×暦日数÷7)を超えた分として集計されます。
日ごとの8時間超や週ごとの40時間超では判定しないため、集計された時間外労働をそのまま固定残業時間と比べて、差額の有無を確認できます。
月60時間超・深夜・法定休日を区分して集計
時間外労働のうち月60時間を超えた部分、22時から翌5時までの深夜労働、法定休日に働いた時間は、それぞれ別枠で集計されます。
固定残業代に深夜や休日の分を含めている場合や、50%の割増が必要な月60時間超の部分がある場合も、区分ごとの時間をもとに差額を計算できます。
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