フレックスタイム制の落とし穴とは?導入と運用の注意点について

フレックスタイム

働く時間を従業員が選べる制度は、採用や定着のために取り入れる会社が増えています。

一方で、フレックスタイム制には導入の手続きや日々の運用に思わぬ落とし穴があり、気づかないまま運用している会社も少なくありません。

就業規則や労使協定をひな形のまま使っていたり、固定時間制の感覚で勤怠を管理していたりする職場では、特に注意が必要です。

フレックスタイム制をこれから導入する会社も、すでに運用している会社も、自社のやり方に落とし穴がないかを確かめられるよう、順に整理していきます。

フレックスタイム制の落とし穴とは?

フレックスタイム制の落とし穴とは、導入の要件の不備、固定時間制の感覚のままの運用、賃金計算の誤りの3つに分かれ、要件を満たしていない場合は制度そのものが認められず、通常の労働時間制で残業代を計算し直すことになります。

導入時・運用時・賃金計算の落とし穴の一覧

フレックスタイム制の主な落とし穴は、以下の通りです。

場面 落とし穴
導入時 始業・終業の一方だけを従業員に委ねている
導入時 曜日や日を限ってフレックスにしている
導入時 労使協定に必要な事項が書かれていない
導入時 労働者代表を会社が指名している
導入時 コアタイムが長すぎる、フレキシブルタイムが短すぎる
導入時 清算期間1か月超なのに労使協定を届け出ていない
運用時 出退勤の事前承認や、コアタイム外の会議への出席を命じている
運用時 出勤日まで自由だと誤解している
運用時 休憩の一斉付与を考えていない
運用時 フレキシブルタイムを決めず、深夜労働が増えている
運用時 労働時間の把握を本人任せにしている
賃金計算 1日8時間を超えた分で残業代を計算している
賃金計算 遅刻・早退を理由に賃金を控除している
賃金計算 超えた時間を翌月に繰り越している
賃金計算 清算期間1か月超で、月ごとの割増賃金を払っていない
賃金計算 深夜・法定休日の割増賃金を払っていない

要件を満たしていないと、通常の労働時間制で残業代を計算し直すことになる

フレックスタイム制は、就業規則などで始業と終業の時刻を従業員の決定に委ね、労使協定で必要な事項を定めた場合に限って認められる制度です(労働基準法第32条の3)。

これらの要件を満たしていない場合、会社がフレックスタイム制のつもりで運用していても、法律上は通常の労働時間制として扱われます。

通常の労働時間制では、1日8時間や1週40時間を超えた時間がその都度時間外労働になるため、清算期間の総枠で判定していた残業代を、日ごと・週ごとに計算し直さなければなりません。

未払いとなった残業代は、従業員から過去3年分をさかのぼって請求される可能性があります。

このように、フレックスタイム制の落とし穴とは、導入の要件の不備、固定時間制の感覚のままの運用、賃金計算の誤りの3つに分かれ、要件を満たしていない場合は制度そのものが認められず、通常の労働時間制で残業代を計算し直すことになります。

次は、フレックスタイム制の導入時の落とし穴を解説します。

フレックスタイム制の導入時の落とし穴

フレックスタイム制の導入時の落とし穴は、始業と終業の両方を委ねていないこと、日を限った運用、労使協定の記載漏れや労働者代表の選び方の誤り、長すぎるコアタイム、清算期間1か月超の届出漏れです。

始業・終業の一方だけを委ねている

フレックスタイム制では、始業の時刻と終業の時刻の両方を従業員の決定に委ねる必要があります。

始業時刻だけを選べて終業時刻は会社が決めている場合や、決められた勤務時間を前後にずらすだけの場合は、時差出勤であってフレックスタイム制ではありません。

曜日や日を限ったフレックスにしている

週5日のうち特定の曜日だけをフレックスタイム制にするなど、日を限って始業と終業を委ねる運用は、法律上のフレックスタイム制にはあたりません。

私用で外出した日に終業時刻を自動で繰り下げるといった仕組みも、始業と終業を従業員が決めているとはいえないため、フレックスタイム制とは認められません。

労使協定の記載漏れ

フレックスタイム制の労使協定には、以下の事項を定める必要があります(労働基準法第32条の3、労働基準法施行規則第12条の3)。

  • 対象となる労働者の範囲
  • 清算期間と、その起算日
  • 清算期間における総労働時間
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイムを設ける場合は、その開始と終了の時刻
  • フレキシブルタイムを設ける場合は、その開始と終了の時刻
  • 清算期間が1か月を超える場合は、協定の有効期間

特に清算期間の起算日や標準となる1日の労働時間は、ひな形から写すときに抜けやすい項目です。

労働者代表を会社が指名している

労働者の過半数で組織する労働組合がない場合、労使協定は労働者の過半数を代表する者と結びます。

労働者代表は、管理監督者ではない人の中から、投票や挙手などの方法で選ぶ必要があり、会社が指名した人や、会社の意向で選ばれた人とは有効に協定を結べません(労働基準法施行規則第6条の2)。

代表の選び方に問題があると、労使協定そのものが無効になり、フレックスタイム制も認められなくなるおそれがあります。

コアタイムが長すぎる、フレキシブルタイムが短すぎる

コアタイムが標準となる1日の労働時間とほとんど同じ長さだったり、フレキシブルタイムが極端に短かったりすると、始業と終業を従業員が決めているとはいえなくなります。

この場合も、フレックスタイム制とは認められないおそれがあるため、コアタイムは全員がそろう必要がある時間帯に絞って設定します。

清算期間1か月超なのに届け出ていない

清算期間が1か月以内であれば労使協定の届出は不要ですが、1か月を超える場合は、労働基準監督署への届出が必要です。

届け出なかった場合は、30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法第120条)。

このように、フレックスタイム制の導入時の落とし穴は、始業と終業の両方を委ねていないこと、日を限った運用、労使協定の記載漏れや労働者代表の選び方の誤り、長すぎるコアタイム、清算期間1か月超の届出漏れです。

次は、フレックスタイム制の運用の落とし穴を解説します。

フレックスタイム制の運用の落とし穴

フレックスタイム制の運用の落とし穴は、出退勤を会社が指示してしまうこと、出勤日や休日の扱いの誤解、休憩の一斉付与の見落とし、深夜労働の増加、労働時間の把握を本人任せにすることです。

出退勤の事前承認や、コアタイム外の会議への出席命令

出勤や退勤の時刻を上司が事前に承認する運用や、上司が出退勤の時刻を指示する運用は、始業と終業を従業員が決めるという要件を満たさなくなります。

コアタイム以外の時間帯に会議への出席を業務命令で求めることもできず、出席を求めたい会議がある場合は、その時間帯をコアタイムとして設定するか、本人の同意を得て調整する必要があります。

出勤日まで自由だと誤解している

フレックスタイム制で従業員に委ねられるのは、労働日の始業と終業の時刻であり、どの日に出勤するかまで自由になるわけではありません。

所定労働日に勤務しなかった日は欠勤として扱われ、会社は法定休日(毎週1日または4週4日)も確保しなければなりません(労働基準法第35条)。

休憩の一斉付与を考えていない

フレックスタイム制でも、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与える必要があります(労働基準法第34条)。

休憩は全員に一斉に与えるのが原則のため、コアタイムを設けている場合は、コアタイムの中に休憩時間を定めておく必要があります(労働基準法第34条第2項)。

休憩を一斉に与えず、各自の判断で取らせる場合は、一斉休憩の適用を除外する労使協定を結んでおく必要があります。

フレキシブルタイムを決めず、深夜労働が増える

フレキシブルタイムを設けずに出退勤を完全に自由にすると、夜遅くまで働く従業員が増え、22時から翌5時までの深夜労働に25%以上の割増賃金が必要になります。

深夜の勤務が続けば健康面への影響も大きくなるため、出退勤できる時間帯をフレキシブルタイムとして決めておくのが一般的です。

労働時間の把握を本人任せにしている

始業と終業の時刻を従業員が決めていても、会社には、タイムカードやパソコンの使用時間などの客観的な方法で労働時間の状況を把握する義務があります(労働安全衛生法第66条の8の3)。

自己申告だけに頼ると、実際の労働時間との差が生まれ、未払い残業代や長時間労働の見落としにつながります。

このように、フレックスタイム制の運用の落とし穴は、出退勤を会社が指示してしまうこと、出勤日や休日の扱いの誤解、休憩の一斉付与の見落とし、深夜労働の増加、労働時間の把握を本人任せにすることです。

次は、フレックスタイム制の賃金計算の落とし穴を解説します。

フレックスタイム制の賃金計算の落とし穴

フレックスタイム制の賃金計算の落とし穴は、1日8時間を基準にした残業計算、遅刻・早退を理由にした控除、超過時間の翌月への繰越、清算期間1か月超での月ごとの割増の未払い、深夜・法定休日の割増の未払いです。

1日8時間を超えた分で残業代を計算している

フレックスタイム制の時間外労働は、清算期間の実際の労働時間が法定労働時間の総枠(40時間×暦日数÷7)を超えた部分であり、1日8時間を超えたかどうかでは判定しません。

固定時間制の設定のまま勤怠システムで集計していると、総枠に収まっている時間まで時間外労働として割増賃金を払ってしまったり、反対に総枠を超えた時間を見落としたりします。

遅刻・早退を理由に控除している

フレックスタイム制では、清算期間の総労働時間を満たしていれば、コアタイムに遅れた時間や早く帰った時間を理由に賃金を差し引くことはできません。

賃金を控除できるのは、清算期間の実際の労働時間が所定の総労働時間に足りなかった場合で、その不足時間の分に限られます。

コアタイムに遅れたことを、就業規則に基づいて人事評価や懲戒の対象にすることは、賃金の控除とは別に検討できます。

超えた時間を翌月に繰り越している

所定の総労働時間に足りなかった時間は、翌月の法定労働時間の総枠の範囲内であれば翌月に繰り越せますが、超えた時間を翌月に繰り越して相殺することはできません。

その月に働いた時間の賃金はその月に全額を支払う必要があり、超過時間の繰越は賃金の全額払いの原則(労働基準法第24条)に反します。

清算期間1か月超で、月ごとの割増を払っていない

清算期間を3か月にしても、残業代を3か月ごとにまとめて払えばよいわけではありません。

清算期間が1か月を超える場合は、各月の労働時間が週平均50時間を超えた部分をその月の時間外労働とし、その月の賃金で割増賃金を支払う必要があります。

清算期間の最後の月には、清算期間全体の総枠を超えた時間がまとめて加わるため、時間外労働の上限規制を超えやすい点にも注意が必要です。

深夜・法定休日の割増を払っていない

フレックスタイム制でも、22時から翌5時までの深夜労働には25%以上、法定休日の労働には35%以上の割増賃金が必要です。

法定休日に働いた時間は、清算期間の総労働時間や時間外労働とは別に集計して計算します。

このように、フレックスタイム制の賃金計算の落とし穴は、1日8時間を基準にした残業計算、遅刻・早退を理由にした控除、超過時間の翌月への繰越、清算期間1か月超での月ごとの割増の未払い、深夜・法定休日の割増の未払いです。

次は、フレックスタイム制の落とし穴を避けるためのチェックリストを紹介します。

フレックスタイム制の落とし穴を避けるためのチェックリスト

フレックスタイム制の落とし穴を避けるには、導入時の書類、日々の運用、賃金計算の3つの場面ごとに、要件と計算のルールを守れているかを定期的に確認することが大切です。

自社の運用を確認するためのチェックリストは、以下の通りです。

場面 確認すること
導入時 就業規則に、始業と終業の両方を従業員の決定に委ねると定めているか
導入時 労使協定に、対象者・清算期間と起算日・総労働時間・標準となる1日の労働時間を定めているか
導入時 労働者代表を、投票や挙手などの方法で選んでいるか
導入時 コアタイムが長すぎず、フレキシブルタイムが十分に確保されているか
導入時 清算期間1か月超の場合、有効期間を定め、労使協定を届け出ているか
運用時 出退勤の時刻を上司が指示したり、事前承認制にしたりしていないか
運用時 休憩を一斉に与えているか、または一斉休憩を除外する労使協定があるか
運用時 法定休日を確保しているか
運用時 客観的な方法で労働時間を記録しているか
賃金計算 時間外労働を、清算期間の総枠を超えた時間で計算しているか
賃金計算 遅刻・早退を理由に賃金を控除していないか
賃金計算 超過時間を翌月に繰り越していないか
賃金計算 深夜・法定休日・月60時間超の割増賃金を払っているか

制度を導入したときだけでなく、就業規則や労使協定を見直すときや、勤怠システムを入れ替えるときにも、あわせて確認しておくと安心です。

このように、フレックスタイム制の落とし穴を避けるには、導入時の書類、日々の運用、賃金計算の3つの場面ごとに、要件と計算のルールを守れているかを定期的に確認することが大切です。

次は、フレックスタイム制の落とし穴を勤怠管理で防げる勤怠クラウドを紹介します。

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総枠で時間外を集計し、1日8時間で計算してしまう誤りを防ぐ

従業員のグループごとに勤務形態をフレックスタイム制に設定すると、時間外労働は、その月の労働時間の合計が法定労働時間の総枠(40時間×暦日数÷7)を超えた分として集計されます。

日ごとの8時間超や週ごとの40時間超では判定しないため、固定時間制の基準で残業を計算してしまう誤りを防げます。

所定総労働時間を入力しておけば、所定に足りない時間も「フレックス不足」として別に集計されます。

遅刻・早退の判定の対象外

フレックスタイム制のグループは予定時刻を持たないため、遅刻や早退の判定の対象になりません。

固定時間制のグループと同じシステムで管理していても、フレックスタイム制の従業員に遅刻や早退が記録されることはありません。

深夜・法定休日・月60時間超を区分して出力

22時から翌5時までの深夜労働、法定休日に働いた時間、月60時間を超えた時間外労働は、それぞれ別枠で集計されます。

集計結果は、従業員ごとに労働時間制・出勤日数・実働時間・時間外・うち月60時間超・深夜・法定休日・フレックス不足の列で、CSV・Excel・PDFに出力できます。

休憩が法定に足りない日はアラートで通知

退勤の打刻をしたときに、その日の休憩が法定の必要時間(6時間超で45分、8時間超で60分)に足りない場合は、アラートで管理者に知らせます。

フレックスタイム制の従業員も対象になるため、各自の判断で休憩を取る運用でも、休憩の取り忘れに気づけます。

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